2008年3月6日木曜日

#2 「黄砂」

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《元ネタ》
<黄砂>「発生源を中国に特定するのはおかしい」中国の専門家が反論—中国
 3月5日11時35分配信 Record China



《文字で読む》


 小説 『黄砂



 時は寛政十二年。

「うわぁー!」
「ぎゃあー!」

 と、大人が喚くような声が聞こえたかと、「なんだよ、こんな朝っぱらから」と起こされて、長屋で暮らす大工見習いの佐吉はその早朝、どてらを羽織ったまま戸を開けブルッと外を眺め見る。

 そこは一面、黄金の海だった。

 いやいや、そんなはずはない。なんだ夢かと寝床に戻ろうとしたところ、土間からの上がりっぱな、足の小指をガンッ! 
「いてぇ!いてぇ!!」と目を見開いて、こりゃあ現かと戸に戻り、
 ガンと開け放つ。
 よーく目を見開き、目をこすり、再び見開いてよーく見ても、黄金に輝く砂が敷き詰められた世界がそこにある。いやいや、未だにしんしんと降り注いでいる。キラキラと、降り注ぐは黄金の砂。
 それは戸の前、見慣れた隣の壁に下から覆いかかるよう積み上がり、左右見渡しても白き雪のごとく積み上がっている様。
 雪やこんこと降り積もるなら、子や犬喜び駆け回るだろうに、そこはだるまにならぬさらさらの黄金の砂。黄砂。
 子供はなんだとこたつで丸くなったまま、父と母は雄叫び上げて駆けずり回っていた。

「金だ! 金! うおぉー!!」
「あんた拾うのよ! 全部拾うのよ! 急いで~!!」

 大の大人が朝っぱらから目を血走らせて右往左往。我先にとしゃがんで両手でかき集める。


「子は中でこたつに入ったまま動かぬようで良かったな。とても
 子には見せられない姿だろうからな、あっはっは……と、笑って
 いる場合ではない! 急がねば!!」

 佐吉も後れを取ってはなるまいと、早速、とてもガキには見せられないであろう餓鬼同然の卑しき掻き集めに必死となった。
 そのとき誰かが遠くの方で叫び声を上げた。

「天竺だ! 天竺の方から降ってきているぞ!」
「仏様だ! 仏様が飢饉に苦しむ我らに施しをくださって
 おいでなさるんだ!」
「ありがたや〜、ありがたや〜!!」

 その黄金の砂はどうも西方から風に乗って舞い降りているらしい。それでありがたみを感じている者もいたが、そんなことはどうでもいい。その金で生活が豊かになるなら、相手が神様だろうが仏様だろうが関係なく、ありがたく頂戴するだけ。できるだけ多く頂戴して、できるだけ贅沢な暮らしをできるだけ長い間送ることを願うだけ。そのことを思って祈って一心不乱になり、手から血が滲もうがお構いなく、とにかく黄金の砂を掻き集めたのであった。

 また、元の江戸の長屋の風景に戻った頃、佐吉の家の土間は黄金の砂が敷き詰められた、あたかも“金”間となっていた。

「こんだけありゃ、一生寝て暮らせるわ! いや~、神様仏様
 三蔵法師様、ありがたや〜、ありがたや〜……さてと、感謝の念
 はこのくらいにして、早速、溶かして固めて持ち運び良くするか」

 かまどに火を焚き、その黄金の砂を入れた土鍋をきんきんに熱した。

 持ち歩けるほどの大きさに固めた金。それをばらまき花魁で遊び呆ける姿を思い浮かべて半笑いになりながら、早く熔けろとかまどに薪をどんどんくべてきんきんに熱する熱する……。
 ところがいくら熱してもその黄金の砂は一向に熔ける気配はなく、さらっさらのまま。もしや金ではないのかと疑えど、木の粉なら燃えているはず。燃えるでもなく熔けるでもなく、さらっさら。ついには土鍋がぱかーんと割れてしまった。

「なんだこの金の砂は! どうなってんだよ!!」と家を飛び出し叫ぶ佐吉に続くように、長屋の連中も次々と飛び出してきて叫んだ。

「仏様!、この金の砂はなんなんだ〜!」
「私どもにどうしろとおっしゃるのですか〜!」
「これはただの黄の砂、黄砂か! お〜い!!」
「あんだよ! 支那から来た、何の役にも立たねぇ小汚い黄色い砂
 かよ。チッ!!」

 そんな罵倒が長屋を行き交う向こうから、彼はやってきた。

 すらっと長い背。手足も長く、流れるように歩く様。肌の色は我々よりもやや黒みがかり、頭には白いさらし布を巻いていた。
 今思えば、江戸では決して見ることのない、見ることのできない異国の人だった。しかし、すべてがわかっているかのように歩くその姿に長屋の連中は声を上げることもできず、そのすーっと歩く姿を見守ることしかできず、彼は佐吉の隣、長助の家に入っていった。皆も続くように入っていった。

 すると彼はおもむろにかまどに薪をくべて火を焚き、土鍋をかけるとそこに黄金の砂を二握りほど放り込み、まるで炒めるかのように箸を回し始めた。しばらく後、水を注ぎ、その砂をなじませるかのごとく、ゆっくりゆっくりかき混ぜる。するとどうだろうか、あれほど熱しても熔けることのなかった黄金の砂が水に混じり合い、

だまになって熔けていくではないか。彼は続けて、ゆっくりゆっくりと箸を回し、水を混ぜてはくるくると。
 やがてとろとろとなっていったところで、彼はなんと、それを器に注いで舐めようとしたのである。

「火傷すんぞ!」

 長助が叫んでも動じることなくその液体を舐めると彼は頷き、大きな器にその液体を取り分けていった。そして佐吉たちに差し出したのであった。
「なんだなんだ? 俺らにも舐めろ、っていうことか?」
 彼は器を持って頷いた。舐めろと促すように、右手を俺らにさしのべた。そして自らも器に盛られたその液体をペロペロと舐め始めた。
 佐吉たちも渋々だが、舐めてみようかとなり、まずは長助が先に舐めてみた。

「うん……おっ! これは美味い! トロトロとしていながら舌に
 染みるこの味……くーっ! 辛い! けど、美味い!!」

 それを聞くと堪らず皆も舐め始めた。江戸では見たことのない黄金色の液体。今まで嗅いだことのない、ツーンとした香り。そしてとろみと辛み。得も言われぬその味に、舌鼓を打ちつつ、止められず止められず、皆は舐め続けた。鍋の底まで舐め尽くすほど、夢中になって舐め続けた。舐め続けて腹一杯になって倒れ込んだ佐吉は言った。
「こんなに夢中で食べたのは始めてだ。いや~、美味かった。これ
 があれば飢饉に苦しむこともなかろう。ありがとう、異国の人よ
 ……あれ? 異国の人は?」

 気付くと彼は居なかった。

 しかし彼が教えてくれた黄金の砂で作る黄金の液体は瞬く間に江戸に広がり、全国へと広がっていった。液体だけでは味気ないと根菜を入れてみる者もいれば、海辺の国では魚介類を入れてみたり。鳥の肉を入れて楽しむ者、幕府に隠れて牛や豚の肉を入れて楽しむ者もいた。また、大名の間ではシャリにかけて楽しむ食べ方が流行したという。

 平成の世になった今でも日本中の人々に愛され続けている、
黄金色の食べ物。
 黄金の粉を炒めて溶かしてトロトロにしていただく、
黄金色の液状の食べ物。
 名を語ることなく消えた異国の人=彼、にちなんで
こう名付けられた。


 彼。


 今では日本の国民食となっている。

2008年2月21日木曜日

#1 「総理大臣役」

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《元ネタ》
キムタク今度は総理大臣役 フジ月9で“高支持率”狙う
 2008.2.19 12:01 産経ニュース



《文字で読む》


 小説 『総理大臣役


 桜田門の方から正門を入っていき、右手の参議院をさらに奥、
参議院分館と別館の間にある扉の中へ我々は通された。
 その階段を下りる際、総理の額を間近で見た私は、ほとんど脂の浮き出ていないその様を何か不思議に感じたのだが、そんなことなど彼方に忘れるほどの驚きを私は受けることになるとは……。

「国会議事堂の中に入るのは初めてですか?」
「えぇ。総理と話すのも初めてですし、かなり緊張しています。
 手からにじみ出る汗が止まりません」
「どんだけ~。それって、どんだけ〜」
 このIKKOという輩はなんでも「どんだけ〜」で片付けようとする。本当に適当な男だ……ん? 男か?……いやいや、男、男。男好きな男だ。
 総理を先頭に私とIKKOの3人は階段を下りていった。
 踊り場に着いて左に下る、踊り場に着いて左に下る、下る、下る、下る……。
 それを何回くり返しただろうか?
 不思議なことに階数を示すプレートはどこにも見当たらない。階段、踊り場、階段。まったく同じ風景の連続。
「総理、この階段はいささか……」
「うん。長いな。階数も表示していないし、混乱させてすまない。
 しかしこれも万が一外敵が侵入した際の防御策なんだ。しばらく
 がまんしてくれ。多少疲れるかもしれないが」
「ホント、どんだけ〜」
 確かに、ここは、どんだけ〜。

 しばらくすると、今までなら踊り場があるはずの場所に大きな扉が現れた。左右に開く鉄扉の中途に小さなのぞき穴があり、総理がそこからのぞくとすぐにブワッと開いた。
 長く続く通路。天井は世界一の巨人はおろか大抵のキリンでも悠々と歩けるほど高く、左右には均等に大きな扉が続き、通路中央には赤い絨毯がどこまでも敷かれていた。
「もうちょっと歩くことになる。すまんな」
「えぇ〜、どんだけ~。ちょっと、どんだけ~」
 はいはい、どんだけでしょうね。
 また、しばらく歩くと、左側に開いている扉があった。ふと見ると、そこには華を生けている髪の長い者が……。
「あっ、カーリー! なんでなんで!!」
 假屋崎だった。
「やっぱり、アンタも来たの。マジーも来てるわよ。ほらあっち」
「ウソウソ!」
 そう言うとIKKOは走っていき、右側に開いていた扉の中を覗く。
「ホントだマジー! やだやだ! なになに! 何を教えている
 の! ウォーキング?……つーか、石破大臣じゃな~い! 石破
 大臣にウォーキングって、どんだけ~!」
「え、総理だけじゃなくて大臣もいるんですか? ここには」
「そうだよ。大臣は皆ここで一流を学び、一流となる。生け花で
 一流の美を学び、一流を感じることを知る。食に関してもそう。
 ほら」
 総理が指さす先では料理が行われていた。指導しているのは、
マロン。
「服装に関しても、自分の着こなしを知ることと同時に、相手の
 服装からいろいろと情報を得るテクニックを習得しなくてはなら
 ない。
 あのように数多くのスーツが並べられているのは着るためだけじ
 ゃなく、相手がそのようなスーツを着ていた時、そこにどのよう
 なメッセージが込められているかを瞬時に判断しなくてはならな
 いから、それを学ぶためにある」
 その部屋にはざっと500着以上のジャケットが並べられていた。そのひとつを持って冬柴国交相に何かしゃべりかけているのは
ファッションプロデューサーの植松晃士。
「先ほどのウォーキングに関してもただ単に美しく歩くだけじゃ
 なく、時には威厳を持って歩かなければならないし、時には反省
 しているように歩かなければならない。だからデューク更家でな
 く演技指導もできるダンサー真島茂樹に指導をお願いしているん
 だよ。
 一国の長として、各省庁の長として、国民の前に出るとき、また
 他国の長と対峙するときに、伝えたいことによってどのような
 格好をし、どのような振る舞いをしたらいいのか? どのように
 演じたらいいのかを学んでいるんだよ。
 それが完璧になるように、一流の先生を招いてね」
「なるほど。でも、その先生方に変な偏りがあるような……」
「え? なんだね?」
「いや、なんでもないです……ところで、このような場に呼ばれた
 ことは大変光栄なのですが、つまりは私もその先生の一員、とい
 うことなんですよね?」
「そうだが、何か?」
「いや、IKKOさんはわかるんですよ。そのメイクや髪型は人の気分
 や体調を伝えるのに非常に重要だし、情報を発信するという意味
 では欠かせないファクターであることはわかるんですよ。でも、
 私の専門は、メイクはメイクでも特殊メイクですから。その必要
 が……あ、そっか、何かあって傷が出来たりしたら、それを完全
 に隠さなければなりませんからね。単なるメイクだけでは隠せな
 いような傷。あの、赤城元農水相みたいに、あの局面で絆創膏は
 まずいですからね。あのような失態をしないようにってことです
 ね」
「いや、違うよ。文字通り、特殊なメイクを毎日、施してもらいた
 いから呼んだんだ。毎日顔を作ってもらうためにね」
 そう言うと、総理は鏡の前に座り、メガネを外すと右あごの下辺りに手を回したと思ったらすぐ、バリバリバリと顔を剥がし始めたのであった。
「え、え、そ、総理!? そ、それって」
「そうだよ、特殊……(バリバリバリ)…メイクで作ったマスク」
「え、え!?……キムタク?……あ、いや、木村さん、ですよね?」
「ど、どんだけ~!!」
 総理がマスクを外すと、そこにいたのはキムタクこと木村拓哉だった。

「そう、総理大臣役の木村拓哉です。よろしく」
「ど、ど、どん、どん、ど・ん・だ…」
「どんだけとかじゃねぇから! IKKO、ここは。な? な?
 ……で、えーと、木村さん、どういうことですか? これって」
「どういうこともそういうことも、こういうこと。今は俺が総理
 大臣の役をやっているってこと。特殊メイクして」
「ホント、ですか?」
「いや、マジマジ。他の大臣もみんなそうだから。役者がやって
 いるから。わかりやすいところで言うと、小池元防衛相とかは
 松たか子だったし」
「あ〜、なんかわかる~! それ~! どんだけ~! それ、
 どんだけ~!!」
 ……チッ。
「あとは……あぁ、さっきの石破さん? あれ、温水さん」
「あぁ、雰囲気はなんとなく……って、見た目は全然違うじゃない
 ですか!」
「そうだよ。みんな特殊メイクのマスクしてるから。俺だって福田
 さんっぽくないっしょ?」
「いや、まあ、それは確かに」
「俺は、えーと94年?だったな、確か。村山さん。あれからだから、
 俺が総理大臣役になったのは」
「確かに村山さんは特殊メイクっぽいですよね……って、いやいや、
 そんな簡単に認めていいのか? 俺。大臣を役者演じているなん
 て、そんな……でも、ここは確かに国会議事堂の地下だし……」
「まあまあ、信じられなくても仕方ないよ。まあ、とにかく特殊
 メイクのマスクを作ってくれればいいから。こっちの要望通りに。
 それでアナタが作ったマスクにIKKOさんがナチュラルメイクを
 施すっていうこと。それで一緒につれて連れてこられたっていう
 わけ。それでいい?」
「まあ、仕事は仕事なのでやりますけど、できればやっぱり理由を
 知りたいです。そうじゃないとなんか気持ち悪くて……ねぇ、
 IKKOさん」
「そうね。それは、そうね」
 どんだけ~、以外の受け答えもできるんだね。この男。
「まあ、要するに役人に対抗できるのは役者ってこと。
 各省の役人って東大とか普通に出てて、いわゆる地頭がいいじゃ
 ん。それを人気だけでのし上がったような政治家には上手く操れ
 ないワケ。適当なタレントや芸人が政治家になっちゃう世の中っ
 しょ? それじゃ困るワケ。だから上手く操作できる役者を使っ
 て役人を操作しようってこと。
 これって国内だけじゃなくて、他の国との外交面においてもそう
 だし、とにかく政治家がバカじゃ困るし、大臣同士で横の繋がり
 が上手くできてないと、世論の操作も上手くできないじゃん。
 だったら、演出家を一人にして全員役者にやらせて統率しちゃっ
 ている、っていうワケよ」
「演出家? そんな人がいるんですか! それって、つまり影の
 フィクサーみたいな人がいて、その人の指示通りに大臣は全員
 動いているってことですか! 神様みたいじゃないですか! 
 それ、誰なんですか!」
「誰って……ここ、日本だろ?」
「日本の神様……もしかして、て、天皇?」
「その通り……なーんて、嘘。彼も演者だから」
「え、え!? そ、そうなんですか!」
「まあ、今に始まったことじゃねぇし。昔からやってたみたいだし。
 それこそ卑弥呼だって、天照大神だって……って、そんなこと
 言うと日本だけみたいになるけど、世界中、どの国もそうだし。
 世界の政治は十人位で動かしているみたいよ。二千年くらい前
 から」
「ホ、ホントですか!……うーん、それは信じがたいなぁ」
「だってよ、逆に考えてみてよ、平気で同種隣人家族子供を殺し
 ちゃうこの人間畜生がよ、60億人も増えたのはそれこそ誰かが
 統率して計画的に増殖させないと、無理だろ。とっくに絶滅して
 いるだろ」
「まあ、確かにそれはあるかもしれないですね。特に昨今の残虐な
 事件を見ていると」
「まあ、あれは仕込みなんだけどね」
「え?」
「ちょっと、今、戦争期に向かっている関係上、ああいうのを出し
 てんだよ」
「え、なんで?なんで? なんで戦争にし向けているんですか!」
「だってよ、右肩上がりに増殖させるなんて無理だろ? 放ってお
 けば絶滅する種を。
 だからこう、時折、敢えて戦争させるんだよ。そうすれば一時、
 絆みたいなのが生まれるじゃん。それでみんなでがんばっていこ
 う!とかなっちゃって、それで文明とか文化が発達する。そうす
 ると前より加速度的に増えてくる。それでいっぱいいっぱいに
 なったらまた戦争。そのくり返しだってことは歴史を見ればわか
 るだろ?
 そういうこと。必要悪だから。戦争って」
「それを仕掛けているんですか? その……神様みたいな人が」
「そうそうそう。最近で言うと、ギョーザに農薬のヤツとか、まあ、
 わかりやすいよね。相手がどこかもわかりやすい」
「中国、ですか。やはり」
「そういうこと。大きく見ればアメリカと中国だよ。戦争すんのは。
 あと、まあ、年金を始めに国政に対する不満も上手いこと溜まっ
 てきているし、まあ、クーデターは起きるでしょ。そろそろマジ
 で……って、ちょっとしゃべり過ぎちゃったな。時間が押しちゃ
 ったから、今日は君の前任者が作っていった、一番オーソドック
 スな、“事なかれ主義”感を出せてるマスクでいっか。じゃ、IKKO
 さん、メイクよろしく」
「うわっ、福田さんにそっくり! どんだけ~!!」
「さらに“事なかれ”感を増す感じでよろしく!……で、なんだっ
 け? あ、君は明日からよろしくね」
「あ、はい……ちなみに前任者って……」
「ああ、飛んだ。男作って飛んじゃった」
「あ、そうなんですか? でも、それってマズいですよね?」
「え? なんで?」
「だって、コレって、国家機密、って言うんですか? 絶対、外に
 漏らしちゃマズい情報ですよね? それを知っている人間が…」
「うん、それは消えちゃマズいマズい……あ、IKKOさん、お疲れ~。
 えーと、ちなみに、君も、知っちゃったよね? どうする?」
「いや、もう、絶対に黙ってますよ」
「ホント? マジで黙ってられる? ぜってぇ黙ってられる?」
「はい、絶対に!」
「自白剤とか打たれたことないでしょ? あれって自分の意志と
 関係なしにしゃべっちゃうんだけど、それでも黙ってられる?」
「はい……たぶん……いや、絶対に……」
「とは、言い切れないじゃん。だから、消しちゃうんだよ」
「消しちゃう?……え、え!? 殺される、ってことですか!」
「バッカ、違ぇよ。記憶だよ。記憶。
 ビッタリ6時間分の記憶を消しちゃう薬があるんだよ。それを
 毎回ここを出るときに注射する。ここに来るのは大体夜中の2時
 頃。終わって8時にここを出るときに注射すれば、それまでの
 記憶がなくなり、ただ寝ていただけになるってワケ。
 どう? これなら安心でしょ?」
「はい、ちょっと安心しました。自分が国家レベルの機密を保持
 するなんて、そんなプレッシャーに耐えられるわけありませんか
 ら……良かったぁ~」
「うん、良かった良かった……ただし」
「ただし?」
「副作用があんだよね」
「え? どのような?」
「うん、あのさ、脳には視床下部っていう部分があって、そこに
 性的活動を司る部位があるんだけど。男性と女性では男性の方が
 大きく、つまりは性欲が強いってことなんだよ」
「……は、はい。それが?」
「うん、そこがね、男性と女性の中間くらいの大きさなのが、
 いわゆるゲイやオカマで。それでこの薬を注射すると、そこが
 小さくなるっていう副作用があるんだよね」
「それって、つまり……」

 そのとき、部屋の出口で先に注射を打たれていたIKKOが叫んだ。
「ど、どんだけ~~~!…………ウフッ」

「もしかして、それで!? IKKOさんって、それで!?」
「いや、まあ、そうかもしれないっていう段階で。そうという確証
 はまだ……」
「だって、IKKOさんは結構前から来てるんでしょ?」
「あぁ」
「何回も注射を打たれているんでしょ?」
「あぁ」
「もしかして、假屋崎さんもマロンさんも植松さんも真島さんも!?」
「あぁ。数年前から」
「ちなみに前任者っていうのは……」
「あぁ。男だよ。男なのに男を作って飛んじゃったんだよね」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ! 
 おネェは嫌だぁぁぁぁぁぁ!……あ、…(プスッ)
 …………ウフッ」