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《元ネタ》
<黄砂>「発生源を中国に特定するのはおかしい」中国の専門家が反論—中国
3月5日11時35分配信 Record China
《文字で読む》
小説 『黄砂』
時は寛政十二年。
「うわぁー!」
「ぎゃあー!」
と、大人が喚くような声が聞こえたかと、「なんだよ、こんな朝っぱらから」と起こされて、長屋で暮らす大工見習いの佐吉はその早朝、どてらを羽織ったまま戸を開けブルッと外を眺め見る。
そこは一面、黄金の海だった。
いやいや、そんなはずはない。なんだ夢かと寝床に戻ろうとしたところ、土間からの上がりっぱな、足の小指をガンッ!
「いてぇ!いてぇ!!」と目を見開いて、こりゃあ現かと戸に戻り、
ガンと開け放つ。
よーく目を見開き、目をこすり、再び見開いてよーく見ても、黄金に輝く砂が敷き詰められた世界がそこにある。いやいや、未だにしんしんと降り注いでいる。キラキラと、降り注ぐは黄金の砂。
それは戸の前、見慣れた隣の壁に下から覆いかかるよう積み上がり、左右見渡しても白き雪のごとく積み上がっている様。
雪やこんこと降り積もるなら、子や犬喜び駆け回るだろうに、そこはだるまにならぬさらさらの黄金の砂。黄砂。
子供はなんだとこたつで丸くなったまま、父と母は雄叫び上げて駆けずり回っていた。
「金だ! 金! うおぉー!!」
「あんた拾うのよ! 全部拾うのよ! 急いで~!!」
大の大人が朝っぱらから目を血走らせて右往左往。我先にとしゃがんで両手でかき集める。
「子は中でこたつに入ったまま動かぬようで良かったな。とても
子には見せられない姿だろうからな、あっはっは……と、笑って
いる場合ではない! 急がねば!!」
佐吉も後れを取ってはなるまいと、早速、とてもガキには見せられないであろう餓鬼同然の卑しき掻き集めに必死となった。
そのとき誰かが遠くの方で叫び声を上げた。
「天竺だ! 天竺の方から降ってきているぞ!」
「仏様だ! 仏様が飢饉に苦しむ我らに施しをくださって
おいでなさるんだ!」
「ありがたや〜、ありがたや〜!!」
その黄金の砂はどうも西方から風に乗って舞い降りているらしい。それでありがたみを感じている者もいたが、そんなことはどうでもいい。その金で生活が豊かになるなら、相手が神様だろうが仏様だろうが関係なく、ありがたく頂戴するだけ。できるだけ多く頂戴して、できるだけ贅沢な暮らしをできるだけ長い間送ることを願うだけ。そのことを思って祈って一心不乱になり、手から血が滲もうがお構いなく、とにかく黄金の砂を掻き集めたのであった。
また、元の江戸の長屋の風景に戻った頃、佐吉の家の土間は黄金の砂が敷き詰められた、あたかも“金”間となっていた。
「こんだけありゃ、一生寝て暮らせるわ! いや~、神様仏様
三蔵法師様、ありがたや〜、ありがたや〜……さてと、感謝の念
はこのくらいにして、早速、溶かして固めて持ち運び良くするか」
かまどに火を焚き、その黄金の砂を入れた土鍋をきんきんに熱した。
持ち歩けるほどの大きさに固めた金。それをばらまき花魁で遊び呆ける姿を思い浮かべて半笑いになりながら、早く熔けろとかまどに薪をどんどんくべてきんきんに熱する熱する……。
ところがいくら熱してもその黄金の砂は一向に熔ける気配はなく、さらっさらのまま。もしや金ではないのかと疑えど、木の粉なら燃えているはず。燃えるでもなく熔けるでもなく、さらっさら。ついには土鍋がぱかーんと割れてしまった。
「なんだこの金の砂は! どうなってんだよ!!」と家を飛び出し叫ぶ佐吉に続くように、長屋の連中も次々と飛び出してきて叫んだ。
「仏様!、この金の砂はなんなんだ〜!」
「私どもにどうしろとおっしゃるのですか〜!」
「これはただの黄の砂、黄砂か! お〜い!!」
「あんだよ! 支那から来た、何の役にも立たねぇ小汚い黄色い砂
かよ。チッ!!」
そんな罵倒が長屋を行き交う向こうから、彼はやってきた。
すらっと長い背。手足も長く、流れるように歩く様。肌の色は我々よりもやや黒みがかり、頭には白いさらし布を巻いていた。
今思えば、江戸では決して見ることのない、見ることのできない異国の人だった。しかし、すべてがわかっているかのように歩くその姿に長屋の連中は声を上げることもできず、そのすーっと歩く姿を見守ることしかできず、彼は佐吉の隣、長助の家に入っていった。皆も続くように入っていった。
すると彼はおもむろにかまどに薪をくべて火を焚き、土鍋をかけるとそこに黄金の砂を二握りほど放り込み、まるで炒めるかのように箸を回し始めた。しばらく後、水を注ぎ、その砂をなじませるかのごとく、ゆっくりゆっくりかき混ぜる。するとどうだろうか、あれほど熱しても熔けることのなかった黄金の砂が水に混じり合い、
だまになって熔けていくではないか。彼は続けて、ゆっくりゆっくりと箸を回し、水を混ぜてはくるくると。
やがてとろとろとなっていったところで、彼はなんと、それを器に注いで舐めようとしたのである。
「火傷すんぞ!」
長助が叫んでも動じることなくその液体を舐めると彼は頷き、大きな器にその液体を取り分けていった。そして佐吉たちに差し出したのであった。
「なんだなんだ? 俺らにも舐めろ、っていうことか?」
彼は器を持って頷いた。舐めろと促すように、右手を俺らにさしのべた。そして自らも器に盛られたその液体をペロペロと舐め始めた。
佐吉たちも渋々だが、舐めてみようかとなり、まずは長助が先に舐めてみた。
「うん……おっ! これは美味い! トロトロとしていながら舌に
染みるこの味……くーっ! 辛い! けど、美味い!!」
それを聞くと堪らず皆も舐め始めた。江戸では見たことのない黄金色の液体。今まで嗅いだことのない、ツーンとした香り。そしてとろみと辛み。得も言われぬその味に、舌鼓を打ちつつ、止められず止められず、皆は舐め続けた。鍋の底まで舐め尽くすほど、夢中になって舐め続けた。舐め続けて腹一杯になって倒れ込んだ佐吉は言った。
「こんなに夢中で食べたのは始めてだ。いや~、美味かった。これ
があれば飢饉に苦しむこともなかろう。ありがとう、異国の人よ
……あれ? 異国の人は?」
気付くと彼は居なかった。
しかし彼が教えてくれた黄金の砂で作る黄金の液体は瞬く間に江戸に広がり、全国へと広がっていった。液体だけでは味気ないと根菜を入れてみる者もいれば、海辺の国では魚介類を入れてみたり。鳥の肉を入れて楽しむ者、幕府に隠れて牛や豚の肉を入れて楽しむ者もいた。また、大名の間ではシャリにかけて楽しむ食べ方が流行したという。
平成の世になった今でも日本中の人々に愛され続けている、
黄金色の食べ物。
黄金の粉を炒めて溶かしてトロトロにしていただく、
黄金色の液状の食べ物。
名を語ることなく消えた異国の人=彼、にちなんで
こう名付けられた。
彼。
今では日本の国民食となっている。




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